わたしたちのグループでは主にすばる望遠鏡を用いた遠方天体・初期宇宙の観測的研究をしています。研究のキーワードとしては、遠方銀河、初代銀河、初代ブラックホール、原始銀河団、銀河形成、銀河進化、構造形成、初期宇宙、宇宙再電離、大規模構造、などが挙げられます。
特に最近は以下の4つのテーマを中心に研究を続けています。
宇宙再電離
ビッグバンから始まった宇宙は膨張を続け冷却していき、ほぼ中性水素で覆われた空間になります。この時代は暗黒時代と呼ばれていますが、やがて最初の天体が生まれ周囲の空間を電離していきます。この時代の様子はまだほとんど未解明のままで、観測的に解明していくことが非常にチャレンジングであるばかりでなく、これまでの銀河形成・進化研究の進展とも大きく絡んでいるのでたいへん面白いトピックスです。具体的には超遠方銀河を様々な側面から多数観測し、初期宇宙の様子を直接観測することがキーになると考えています。
初歩的な解説
宇宙初期の構造形成
宇宙には、銀河が100個から1000個を超えるほど集まった「銀河団」とよばれる銀河の集団がいくつも見つかっています。宇宙のおける銀河の分布は網の目のように広がっていて糸と糸の交わるところに銀河団にあたり、お互いに結びつきあって「宇宙の大規模構造」と呼ばれる巨大なネットワークを形成しています。このような巨大な構造はいつどのようにできたのでしょう?わたしたちは、まさに成長しつつある過去の若い銀河団を数多く検出し、その答えを見つけようとしています。
HSC サーベイ (探査観測) により明らかにされた約 120 億年前の銀河の分布と原始銀河団領域の拡大図。
「宇宙は原始銀河団であふれている」すばる望遠鏡の解説記事サイトへのリンク
原始銀河団と銀河、そして銀河とブラックホール(以下参照)の関係を探ることは現代天文学の課題です。
初歩的な解説
初代ブラックホール、初代クェーサー
巨大ブラックホールは太陽の100万倍から100億倍にも達する重さを持ち、銀河中心に普遍的に存在していますが、その誕生過程は謎に包まれています。宇宙初期の巨大ブラックホールを見つけるには、それが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝く「クェーサー」を探す方法が効率的です。どのようにブラックホールは生まれ成長してきたのか、銀河とどのような関係があるのか、このような謎を解明するには初代クェーサーの観測が欠かせません。また明るく輝く遠方クェーサーは宇宙再電離に対する知見も与えてくれます。
研究室の扉 「初期の宇宙に大量のブラックホールがあった」解説
「超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見」東大理学部の解説記事へのリンク
「クェーサーの光、ダークマターの影」東大理学部の解説記事へのリンク
暗黒物質(dark matter)
この世の中の物質のほとんどは「目に見ることができないダークマター」であると言われています。この正体を解き明かすこともさることながら、このダークマターといわゆる普通の物質バリオンがどのような物理関係を持ちながら宇宙の構造を作り進化してきたのか、を解き明かすことも宇宙全体の歴史や銀河の性質を知る上で、また宇宙における物質の輪廻を探る上では極めて重要な問題といえます。具体的にはダークマターとガス、星これら3つがどのような相関を持っているのか大局的に理解したいと考えています。そのためには遠方銀河とQSO吸収線系と呼ばれる天体の観測がキーになると考えています。
初歩的な解説
以下に現在研究課題にしていることを箇条書きにしてみます。
- 宇宙再電離
- 初代クェーサー
- 遠方銀河団
- IGM トモグラフィー
- 銀河と銀河間物質の物理的関係
- AGNの環境
- 銀河のダークハローの進化
- 超巨大ブラックホールと銀河の共進化
- QSO吸収線系
私が個人的に宇宙の研究をする上で究極的に知りたいことは、「なぜわたしたちがこの宇宙に生きているのか」ということであり、そんな自分たちの住む宇宙を研究対象していて魅力に感じ続けていることは「宇宙は非常に美しい」ということです。宇宙が美しくあり続ける限り、人類が宇宙を知りたいと願う気持ちはあり続けると信じています。
Last modified: 03/12/2023